[事実関係]

 

訴外有限会社は、和菓子の製造販売を業とし、X1及びX2(原告)の父甲を代表取締役とする同族法人であるが、昭和63年3月22日、東京都中央区に所在する土地及び建物を株式会社Tに2億3,380万円で売却し、同年6月30日、臨時株主総会において同社を解散する旨決議し、同年7月12日、右解散及び清算人就任の登記をした。

訴外法人は、同日の株主総会において、1及びX2に、退職慰労金各6,400万円及び特別慰労金各1,600万円の合計8,000万円、代表取締役甲、監査役、使用人2名にも退職金を支給し、合計2億1,260万円を支給することとする旨決議し、同年8月31日に支給し、確定申告を行った。

同年9月30日、訴外法人の役員及び社員の全員を取締役等とし、訴外法人と同じ菓子製造販売業を営む有限会社G’を設立した。

訴外法人は質問検査を受け、平成元年6月21日、昭和63年6月期分法人税について、本件各退職金の内、それぞれ4,000万円は過大であるとして修正申告書を提出した。

 税務署長は、訴外法人が修正申告に係る租税債務を滞納したことから、訴外法人の普通預金を差し押さえた上、国税局長に徴収の引継ぎを行った。

 国税局長は、X1及びX2に、国税徴収法39条に基づき、本件滞納国税の第二次納税義務者として、各自4,000万円を限度として、同年6月21日を期限として本件滞納国税の全額を納付する旨の

各告知処分を行った。X1らは、本件告知処分について訴訟を提起した。

 裁判所は、

「法人税法36条との関係では、平均功績倍率法を利用して役員退職給与の金額の相当性を判断することが合理的であるとしても、国税徴収法39条との関係では、実際に支給された退職金の金額が平均功績倍率法によって求めたとされる退職金の金額を超えていれば、その超える部分について無償又は著しく低額の対価による財産の処分があったと直ちにいうのは妥当ではなく、平均功績倍率法によって求めた相当とされる退職金の金額と実際に支給された金額の乖離の程度に加えて、当該役員の職務又は功労の内容、程度、勤務年数のほか当該退職金が支給されるに至った具体的事情等も考慮し、その退職金の支給が無償又は著しく低額の対価による財産の処分に該当するか否かを判断するのが相当である。」とした(東京地判平成9年8月8日)。

[解説]

 現金商品と引換えに資産を引き渡す義務の価額は、土地建物の引渡しの段階における市場価額である。

疎外された労働が固定資本に転嫁されてきたことから、法人の資本家に課せられた役員、使用人への退職給付の支払債務は、土地建物の引渡し段階における市場価額である。土地建物を現金商品と交換し、現金商品に価値属性を付与したことで退職金支払債務を代物弁済したのである。土地建物を保有していたことによって、土地建物を無償で引き渡した部分の金額から収益が実現したのではない。

司法は、租税回避のためという実体のない観念に基づいて各退職金を国税徴収法39条の著しく低額の対価による財産の処分としていることは問題である。

司法は、土地建物と交換した現金に国際金融資本に付与された価値属性と現実に得た現金に当該法人の資本家に付与された価値属性の差額は、当該役員の疎外されてきた労働ではないとした。

上記の差額は、経済関係、生産関係、資本関係上の事実関係を全体化することにより、役員属性を付与されていない使用人の労働が疎外された部分の金額も含んでいるということができるのであるが、使用人には疎外された労働の全てが支払われたというのではなく労働は疎外されたままの金額があって、資本関係を土台に、役員退職金の支払を転嫁されたと見れば退職金名目で支給された配当ということになる。

使用人の疎外された労働は、配当名目で課税を受けることにより、資本関係から、労働者には分配されず、国際金融資本の資本に転嫁されたのである。

法人の資本家への配当は、法人税支払前の現金留保から支払を受けたものであるから、源泉所得税を課しても二重課税の経済関係、資本関係は実現しない。

生産手段の貸与、労働の疎外、資本への転嫁の過程が明らかでない3か年平均売上高、右過程が明らかでない勤務期間、役職に備わっていない属性、最終報酬月額、支給退職給与金額、1年当たり退職給与額、功績倍率から比準法人を選定しており、課税行政機関は、国際金融資本との資本関係、生産関係から、恣意は介在し得ないが、経済関係、資本関係、生産関係の全体化を尽くして選定したとは言い切れないであろう。