[事実関係]

 原告は、

「債権者からの債務免除を受ければ、3,000万円余の租税債権が発生し、その納付のために唯一の財産である土地を売却して解散をすることを余儀なくされることから、債務免除通知後も、債権者に対し、債務返済の意思があることを明らかにしており、貸借対照表上も、仮受金として計上しつづけている。債権者のした債権放棄は、専ら貸倒損失として債権額を損金に計上する目的で行われたものであって、私法上の効果の発生を企図したものではなく、貸倒損失の計上が課税庁に許容されることを停止条件としてされたものであり、また、その損金計上が認められなかった場合には、錯誤あったものというべきところ、実際に、債務者は、債権放棄額の損金算入額が認められず、法人税の更正処分がされたものであるから、債務免除の効力は発生していない。

債権者は、平成17年4月11日付けで、「債権放棄通知書の撤回について」と題する書面を原告に送付しており、債務を撤回する旨が記載されている。債権者の本件立替債権に係る貸倒損失計上を否認しつつ、控訴人に対して上記債権につき、債務免除益を認めてこれに課税を行うことが二重課税であり、損害賠償請求権の益金算入の益金算入についての課税実務等に照らしても、本件更正処分は違法である」と主張する。

 裁判所は、

「無償の経済的価値の流入は広く益金に含まれるものと解すべきところ、債務免除についても、債権者からの債務免除の意思表示により、債務が消滅することになって、債務者である当該法人に無償で経済的価値が流入するものであるから、法人税法の所得の計算上、益金の額に算入されるべきものであり、また、収益等の計上は、一般に、その原因となる権利が確定した時期をもって行うべきものであるところ、債務免除が行われた場合にあっては、それが債権者の単独行為として行われるものであり、債務者がその意思表示を受けた時点でその効力が発生するものであるから、その時点を基準にして免除された債権額を益金に計上すべきものというべきである。

また、債権者は、貸倒損失と認定され損金計上が認められることを期待して、本件通知をもって、債権放棄を行ったものの、その場合でも、損金計上を前提として、私法上の効果の発生をも意図していたことは明らかというべきであるから、債権者のした債権譲渡は、専ら貸倒損失として債権額を損金に計上する目的で行われたものであって、私法上の効果の発生を企図してものではなく、貸倒損失の計上が課税庁に認容されることを停止条件としてされたものというような理由により債務免除の効力不発生であったとする原告の主張は採用できない。本件通知の書面には、債権者が平成13年2月21日をもって原告に対する債権を放棄した旨が記載されており、また、債権者の取締役会(平成13年2月5日開催・42期21回)の議事録においても、原告に対する立替金が回収不能であり、関連会社であることから、今期中に全額損金計上する旨が記載されているものの、それ以上に、債権放棄の意思表示を何らかの条件にかからしめる旨の記載は一切存しない。

このことからすれば、債務免除の効力は、本件通知が原告に到達した時点に生じたというべきであって、たとえ、原告主張のような事情があったとしても、債務免除の効力が生じたものとみる妨げにはならないというべきである。平成17年4月11日付でされた「債権放棄通知書の撤回について」と題する通知がされたからといって、本件事業年度における債務免除によりいったん発生した益金が消滅するわけではなく、その発生を前提とした所得計算に誤りが生ずるものではないし、錯誤に係る判断に異同をもたらすものではない。

債務者の貸倒損失計上が税務上是認されるかどうかということと、控訴人(原告)が債務免除を受けたことによる利益に対する課税とは別個の問題であり、同じ課税原因事実につき二重に課税する、いわゆる二重課税の問題を生ずる余地はないといわざるを得ない」とした(東京高判平成20年3月25日)。

[解説]

 債務者は、資本関係上、経済関係上、債務を弁済するしないに意思はない。債権者は、債権放棄をするしないに意思はない。意思表示により債務の免除が自然発生することはありえない。効力というものは実体がない。

条件は仮定であり、実体がない。期待は実体のない観念である。意思、企図、意図、目的、錯誤は実体のない観念である。

債務免除は、債務者側の現金留保、投融資が受けられる関係の有無にかかわらず、債権者が金融資本との資本関係により課された現金留保義務、現金回収義務に基づいて行わざるを得ず、現実には、債権放棄は、債権者の課税前の現金留保から行われ、労働者に債権放棄による損失負担が転嫁されているから、債務免除益が債務者の側に計上されたからといって二重課税の問題が成立するわけではない。

通知は債権者が課された現金留保、現金回収義務に基づいて発行され、債務者の現金留保、投融資を受けられる関係の有無に関係はない。債権放棄をせざるを得ない経済関係、金融資本との資本関係を土台とした実体関係が確定した段階で収益が実現する。