[事実関係]
適格株式移転により株式移転子法人となったなった甲社が、その株式移転の時に、保有していた自己株式に対して割当てを受けた株式移転完全親法人の株式を譲渡するにあたり、当該完全親法人の取得価額を零円として譲渡損益を計算して法人税の確定申告書を提出したが、その後、当該株式の取得価額は上記株式移転の時に保有していた自己株式の取得価額を引き継ぐべきであり、法人税の確定申告書に記載した譲渡損益の計算に誤りがあったとして更正の請求をしたところ、税務署長から更正すべき理由がない旨の通知処分を受け、これに対する異議申立て及び審査請求がいずれも棄却された。
裁判所は、
「自己株式に関する法人税法等の法令の規定についてみると、有価証券の定義について規定した法人税法2条21号は、自己が有する自己の株式株式は、法人税法上の有価証券に該当しない旨を定め、また、資本金等の額について規定した法人税法施行令8条1項は、法人税法上の資本金等の額の算出にあたり、当該事業年度までの各事業年度の自己株式の取得金額又は対価の額に相当する金額を減算する旨を定めている。
これは、会社法の制定を契機として、法人税法上、自己株式については、その取得や処分の場面に限らず、その保有の場面においても資産として取り扱わず、資本等取引に準じて取り扱うこととしたものと解される。これらの規定によれば、法人が自己の株式を取得した場合には、法人税法上、資本金等の額が減少することになる反面、資産として計上されないことになるから、当該自己株式については、消却したのと同様に扱われることとなっているものと解されるのであって、このように法人税法上資産としての価値がないものとして扱われている自己株式については、その帳簿価額は、法人税法上は存在せず、零円になると解される。
したがって、本件自己株式の本件株式移転の直前の帳簿価額は、零円であると解するのが相当である。原告の上記主張は、甲社の法人税申告書の利益積立金額の計算に関する明細書や資本金等の額の計算に関する明細書の自己株式欄にマイナス表記がされていることを根拠としているものと解されるところ、これらの記載は、甲社における自己株式取得による利益積立金額や資本金等の額が減少したことを表しているにすぎず、これらが自己株式の取得時の帳簿価額を表しているものではないことは明らかであるから、原告の主張はその前提において失当である。
さらに、原告は、本件株式の帳簿価額を零円とすると、簿外資産を認めることとなるなどと主張するが、本件株式については、法人税法上の帳簿価額は経理上は有価証券として計上されるのであるから、簿外資産となるものではなく、原告の主張は採用できない。法人税法施行令119条1項10号は、株式移転により交付を受けた当該株式移転完全親法人の株式の取得価額は、当該株式移転完全子法人の株式の当該株式移転の直前の帳簿価額に相当する金額をする旨を定めている。
なお、法人税法61条の2には、適格株式移転により割当てを受けた株式移転完全親法人の株式を譲渡した場合の譲渡益又は譲渡損の計算について特別の規定を設けていないから、上記の場合には、同条1項が適用されることになる。これらの規定に照らすと、本件株式は、甲社が本件株式は、甲社本件株式移転により割当てを受けた株式移転完全親法人の株式であるから、本件株式の原価の額の計算に用いられる本件株式の一単位当たりの帳簿価額の算出の基礎となる本件株式の取得価額は、株式移転完全子法人である甲社の株式である本件自己株式の本件株式移転直前の帳簿価額に相当する金額であるということになる。
そうすると、甲社における本件株式の取得価額は、本件自己株式の本件株式移転の直前の帳簿価額に相当する金額である零円となるのであるから、甲社が本件確定申告において本件株式の取得価額を零円として本件株式譲渡の損金を計算したことに、計算の誤りは認められない。したがって、本件確定申告における本件株式の取得価額及び譲渡益の計算に誤りは認められないとした本件通知処分は適法であるというべきである。
原告は、キャピタルゲイン課税の範囲を超える旨主張するが、これは本件株式移転直前に甲社が所有していた本件自己株式が資産であることを前提とする主張であると解されるところ、前記のとおり、本件自己株式の取得価額は、法人税法上は、甲社の資本金等及び利益積立金の額から減算されており、資産としては計上されていないのであるから、その前提を欠き失当である」とした(東京地判平成23年10月11日)。
[解説]
国際金融資本家は、日本の法人の資本家に当該日本法人の自己株式を高く買い取らせ、現実には配当である現金を受け取る。子法人株式の譲渡益の方便により、原価のない配当課税を免れる。株式は所有しているだけでは現金留保を産まない。
現金商品は価値測定の尺度ではない。自己株式は、生産手段にして貸与し、労働を疎外済みで、自己株式に労働分が転嫁済みで、現金商品、その他資産と交換することができるから、現実には、資産ということになる。
自己株は現金商品又はその他資産と交換され、交換により取得した現金商品、資産、本件でいうと日本法人の自社株と親法人の架空資本に低い価値属性が付与されるから、交換は資本関係にのみ基づいているから、すなわち、現金の投下を源泉に、投下現金を生産手段に、投融資先に労働の疎外を余儀なくさせているから、現実には、親法人の株式で配当を受け取ったことになり、帳簿上の原価は税務上の原価とはならないことになる。
資本関係に基づく、すなわち、現金の投下を源泉に、現金を生産手段に投融資先に労働の疎外を余儀なくさせているから、現金商品と親法人の架空資本を交換し、現金に価値属性が付与された段階においては、受け取った現金に付与された価値属性が配当ということになる。既存の資本関係をそれを土台とする実体関係から、配当と課税により、その支払が労働者に転嫁され、国際金融資本家に資本の集中が促進されるのである。