[事実関係]

 株式会社Tは、その従業員持株会への貸付金を、同持株会が所有するT社の発行済株式を代物弁済により取得することで回収した。税務署長は、その代物弁済により消滅した債権の内、取得した株式に対応する資本等の金額を超える部分は、みなし配当に該当し、T社には源泉徴収義務があるとして、T社に対し、源泉徴収に係る所得税の納税告知処分及び不納付加算税の賦課決定処分をした。
 
裁判所は、

「特定の従業員持株会が、権利能力なき社団(人格なき社団)であるか、民法上の組合であるかは、その運営実態等から、それを構成する当事者の意思を合理的に解釈するのが相当である。T社持株会は、これを権利能力なき社団として組織することが可能であったにもかかわらず、その規約において、あえて民法上の組合であることを明言しており、昭和63年に実施されたT社規約のこの条項は、今日に至るまで改正されていない。また、あえて実体と異なるものとして同条項を定めなければならない合理的な理由もそれをうかがわせる証拠もない。

T社持株会規約が会員、役員、機関、運営等として定める内容や実際の運営の特徴を見る限り、T社持株会は、最高裁判所昭和39年10月15日第一小法廷判決の示した権利能力なき社団の成立要件を充足しているようにもみえる。

しかし、上記判決は、法人格のない団体が権利能力なき社団として認められるための必要条件を示したものであって、判示された要件を充足する場合には必ず権利能力なき社団であると解すべきである旨判示したものではないから、T社持株会が上記判決の示した要件を充足するとしてもそのことから直ちに人格なき社団に当たるということにはならない。

T社持株会は、T社から支払を受けた決算配当の内、配分済株式に係る部分について、T社持株会が業務に関連して他人のために配当所得の支払を受ける者であることを前提とした計算処理を行い、T社持株会が民法上の組合であることを前提としたパス・スルー課税の扱いを受けていた。

こうしたT社持株会の運営実態等に係る事実から当事者の意思を合理的に解釈すれば、T社持株会は、税法上の扱いに即して、民法上の組合という組織形態を積極的に選択した上、これに沿った運営が行われてきたことは明らかであり、以上によれば、T社持株会の法的性格は民法上の組合であると認めることができる。

本件代物弁済の時点において、民法上の組合であるT社持株会の会員らは、T社に対し本件借入債務を負っており、代物弁済によって借入金債務が消滅したという事実関係がある以上、本件代物弁済は所得税法25条1項柱書き及び5号が規定する要件を充足しているので、株式の対価の内、資本等の金額を上回る部分をみなし配当とみるほかないというものである」とした(大阪高判平成24年2月16日)。

[解説]

 紙幣発行権を所有しない労働者は資本関係、生産関係から、架空資本を購入し、投融資を受けざるを得ない。従業員持株会は、法人を通じて資本家から投融資を受けている。すなわち、現実には従業員持株会名義の株式は、資本家に付与されているのである。

資本家と資本関係、生産関係にある従業員持株会の理事長が株式の受託を受けている。配当金は、配当を支払う側の課税前の現金留保から支払われ、資本家も法人も従業員持株会も組合員も、資本関係、資本関係を土台とする現金留保義務から、法律行為を媒介に実体あるものとして社会に認めさせることを余儀なくされたものであるから、各々に課税が行われても、二重課税、三重課税の問題は成立しない。

目的、意思は実体のない観念、方便である。目的、意思に基づいて問題提起や事実確定を行うことは現実の経済関係、資本関係、経済関係から乖離する。資本家、法人、従業員持株会、組合に意思は存在しない。

従業員持株会に性格は備わっていない。経済実体か否かは資本関係、経済関係、生産関係が規定する。架空資本に現金を投下し、生産手段にして貸与し、労働を疎外し、架空資本に転嫁される。労働を疎外することによる現金留保込みの架空資本に付与された価値属性が、貸付債権に付与された価値属性であり、金銭貸借契約により実体あるものとして社会に認めさせることとなる。

従業員持株会は、架空資本をもって債務を代物弁済したのである。法人の資本家が所有する金銭債権と架空資本を交換し、交換の土台が取引の一方のみ又は双方の資本関係のみであれば、従業員持株会が受けた現金留保は全額配当ということになるであろう。 本件の場合、従業員持株会は資本家から投融資を受けているから、従業員持株会の受けた配当金は、法人の資本家に流れるのである。