[事実関係]

 建築物の建設及び工事監理、内装工事等を業とする原告法人は、法人の所得金額の計算上、K社に対する貸付金残高7,917万6,458円を貸倒損失として損金の額に算入したところ、税務署長は、これを否認して更正処分及び重加算税賦課決定処分を行った。

 第一審は、

「貸倒損失は、所得金額の算定に当たって控除すべきものであり、所得の発生要件事実を構成すると考えられるので、貸倒損失の有無が争われる場合には、所得の一定額の存在を主張する課税庁側において当該貸倒損失の不存在を立証すべき責任がある。

しかしながら、貸倒損失は、通常の事業活動によって、必然的に発生する必要経費とは異なり、事業者が取引の相手方の資産状況について十分に注意を払う等合理的な経済活動を遂行している限り、必然的に発生するものではなく、取引の相手方の破産等の特別の事情がない限り生ずることのない、いわば特別の経費というべき性質のものである上、貸倒損失の不存在という消極的事実の立証には相当の困難を伴うものである反面、被課税者においては、貸倒損失の内容を熟知し、これに関する証拠も被課税者が保持しているのが一般であるから、被課税者において貸倒損失となる債権の発生原因、内容、帰属及び回収不能の事実等について具体的に特定して主張し、貸倒損失の存在をある程度合理的に推認させるに足りる立証を行わない限り、事実上その不存在が推定されるものと解するのが相当である。

原告法人は、原告代表者が法人Tから借り入れた9,000万円を原資としてK社へ貸付けを行ったと主張する。

しかしながら、前記争いのない事実及び証拠によれば、Tからの借入金9,000万円は、昭和61年7月3日、原告代表者の普通預金口座に振り込まれたが、預金残高の推移からすると、右7月3日から同月17日の間に、Tからの借入金9,000万円が運用されたと推認されるところ、この間に代表者の右預金口座からK社へ送金されたと認めるに足りる証拠はない。

以上の次第で、原告代表者MがTからの借入金9,000万円を原資としてK社に貸付けをした事実は認められないから、原告法人がその代表者Mの右債務を代位弁済したとしても、その当時MがK社に対して有していた貸付金債権が原告法人に移転したと考えるべき理由は全くなく、また、前記のとおり、Mから原告法人へ右貸付債権が譲渡された事実もなかったのであるから、かかる貸付金債権が原告法人に帰属したものとは認められない」とする(仙台地判平成6年8月29日)。

 控訴審は、

「原告法人は、MがTから借り受けた9,000万円は、原告法人がTに対して代位弁済をしたことから、Mは原告法人に債権譲渡した旨主張する。

しかし、K社に対する貸金債権は貸倒損失として損金に算入しなければならないような不良債権である。このような債権を会社の代表者が会社に債権譲渡するということは通常考えられないところである。

会社に対して債務を負担している代表者が、会社に対して、実際に取立てをすることができないような不良債権を譲渡することによって、自己の会社に対して負担している対当額において消滅させるような、会社に不利益な行為をするということは、会社のために忠実にその職務を執行すべき立場にある会社の代表者としては、会社に対して背任行為であるといわなければならないものであるから、通常会社の代表者がこのような行為をするということは考えられないこととしなければならない。

原告法人とMとの債権譲渡は、原告の租税を回避するために行われた仮装行為であるとみるのが相当である。租税を回避する行為が許されないものであることはいうまでもない。

形式と実体が食い違っている場合には、形式に従うのではなく、実体に従って処理されなければならないものである。

従って、形式によれば、原告法人の債権であると見られるものであるとしても、実質は、原告の代表者であるM個人の債権であると認められるK社に対する債権については、実質課税の原則に照らして処理されなければならないものとしなければならない。原告の主張は理由がない」とする(仙台高判平成8年4月12日)。

[解説]

 紙幣発行権を所有する資本家でない限り、投融資を行って生産手段への投下、労働の疎外の拡大により現金留保を不足させ、再投融資に応じさせ返済できなくさせることはできない。紙幣発行権を有しない資本家、労働者が貸倒れが予測できるか否かは実体がない。

貸倒れは偶発しない。貸倒損失には予め属性は備わっていない。既に労働を疎外済みである債権の譲渡、債権に所有されることは、資本関係、経済関係から規定される。譲渡するしないは、会社のためであるとかの実体のない目的や忠実であるとかの観念やすべきという属性に基づいて規定されるのではない。

しかし、司法は、通常考えられるか否かという宗教学によって債権譲渡の有る無しは規定してしまっている。司法は、実体のない租税回避をするためという目的に基づいて事実確定をしてしまっている。

法人は、資本関係から、当該法人の資本を所有する経済実体の所有する債権が現実に既に回収できないことが確定したものを負担することを余儀なくされた。資本関係により負担するしないに法人の意思はない。労働者に転嫁するしないに法人の意思はない。

資本関係から帳簿記載、貸付契約という法律行為をするしないに意思はないから、資本関係により社会に実体あるものと認めさせることを余儀なくさせられるから、法律上の債権の所有関係と経済上の債権の所有関係が異なるということはない。

よって、貸付先についての債権の貸倒れではなく、資本家への配当ということになる。課税は、労働者の現金留保を疎外して労働力商品と現金商品を交換して現金商品に労働力再生産の土台とする義務という実体のない価値属性を付与して国際資本家に現金留保を集中する過程であることに鑑みれば、所得の実体は課税を行う側が証明する義務がある。