[事実関係]

 衣服等の縫製加工等を業とする原告法人は、本件係争事業年度の法人税につき、代表取締役に対する役員報酬を1,800万円、取締役に対する役員報酬を960万円とし、各々を損金の額に算入して確定申告をしたところ、税務署長は更正処分及び過少申告加算税賦課決定を行った。

 裁判所は、「法34条1項は、内国法人がその役員に対して支給する報酬の額のうち不相当に高額な部分の金額として政令で定める金額は、その内国法人の各事業年度の所得の金額の計算上、損金の額に算入しないと規定されているが、右規定の趣旨は、役員報酬は、役員報酬は役務の対価として企業会計上は、損金の額に算入されるべきであるところ、法人によっては実際は賞与に当たるものを報酬の名目で役員に給付する傾向があるため、そのような隠れた利益処分に対処し、課税の公平を確保しようとするところにある。

そして令69条は、右規定を受けて、不相当に高額な部分の金額を、支給した報酬の金額の内、ア 当該役員の職務の内容、当該法人の収益及び使用人の給与の支給の状況、同種・類似規模の法人の役員報酬の支給の状況等に照らし相当であると認められる金額を超える部分の金額(1号)、又は、イ 定款の規定、株主総会の決議等により定められている役員報酬の限度額を超える部分の金額(2号)のいずれか多い金額であるとしている。

したがって、法34条1項の不相当に高額な部分の金額それ自体は不確定概念ではあるものの、法の趣旨によりその意義を明確になしうるものであり、しかも政令に定められた内容によって、その判断基準も客観的に明らかになっているといえるから、同条項は、憲法84条の課税要件明確主義にはんするものではないというべきである。

なお、原告法人は、令69条1項をもってしても、相当であると認められる金額の予測は不可能であるなどとして法34条1項は憲法84条に違反する、又は合憲限定解釈を必要とする旨主張するが、令69条1項に定められた当該役員の職務の内容、当該法人の収益及び使用人に対する給与の支給の状況という判断基準は納税者自身において把握している事柄であり、同業種・類似規模の法人の役員報酬の支給状況についても入手可能な資料からある程度予測ができるものであるから、相当であると認められる金額を超える部分であるか否かは、申告時において納税者においても判断可能であるといえる。

したがって、この点に関する原告の主張は採用できない」とする(名古屋地判平成6年6月15日)。

[解説]

 資本家と生産関係のある労働者の現金留保を疎外し、租税の支払を転嫁することによって、国際金融資本家に現金留保を集中させる過程に鑑みれば、所得税法上、法人税法上、商法上の各経済実体が知っているか否か、予測できるか否かという観念は実体がなく、観念に関係なく、国際金融資本家は使用人たる国家を使用して、各経済実体の現実の現金留保の過程に関する全ての事実関係を把握、確定し、法律の条文に規定し、条文そのものから了知できることが義務付けられる。

現実の労働は、客観という観念や主義に基づいて断ずることができるのではない。司法は、金融資本家の資本関係、現金留保義務から規定された法の実体のない方便たる立法趣旨を交渉して法を包摂するのではなく、傾向という現象、法則に基づいて法の解釈、法の包摂をするのではなく、同種同規模の法人の役員報酬を現象としてみて法の解釈、法の包摂をするのではなく、現実の労働、現実の資本関係、生産関係、経済関係の事実関係の全体化をして法を包摂する義務がある。

役員は、資本家との資本関係から資本家と生産関係がある使用人である。資本を有する役員が報酬名目で資本家が法人に投下した現金を使用して、実体のない労働につき報酬名目の支払を労働者に転嫁することは、資本関係を土台とする資本関係によるのである。その場合、報酬名目の現金は、役員賞与ではなく配当支給の関係にある。

現実の労働があって、報酬の支払を労働者に転嫁していなければ、国際金融資本家の資本関係、現金回収義務から労働を疎外され、労働力商品に付与された価値属性、労働力商品と交換された現金に価値属性を付与した報酬を超える部分の金額は、生産関係に基づく役員賞与である。

労働を疎外することによって資本家は現金留保をしているのであって、生産関係から現実の労働につき給与の支払義務があり、法人の収益から給与は規定されるのではない。経済実体を基にするのではなく、合憲限定解釈を採用することは国際金融資本家に逃げ口上を与えることである。