株主総会における退職取締役に対する退職慰労金支給の決議はないが、同族法人で、株主総会及び取締役会は殆ど開催されておらず、右退職金については代表者から受給者に通知している等の事実から、法人は退職金の支給を拒否できないとされた事例がある(京都地判平成4年2月27日)。

資本を有する役員の場合、労働の実体がなく、資本関係、現金留保義務に基づく支出で労働力商品にその支払を転嫁させていれば配当であるが、労働の実体があり、生産関係に基づく支出であり、その支払を労働者に転嫁することなく資本家に転嫁していれば給与、退職金ということになる。

労働者は、既に労働を疎外されて、資本家は、労働力商品に価値属性を付与して、生殖による労働力再生産、投融資先再生産の土台という方便が与え、現金に価値属性が付与され労働力商品に付与された価値属性を実体あるものと社会に認めさせる。

労働力商品と現金の交換は経済過程に時間という価値属性が付与され、資本関係により給与支給日まで資本家に貸し付けることを余儀なくされているのである。労働の疎外分を支払うことは、法人を所有する資本家の現金留保に関係なく、資本家が法人に留保している現金に関係なく、労働者からの請求があったか否かに関係なく、生産関係上の義務である。

給与、退職金を支払う支払わないに資本家の意思はない。退職金支給の土台として株主総会による決議を義務付けることは、資本家の資本関係、現金留保義務、現金回収義務から、株主総会によって退職金を支払わないことを決議することができてしまうのである。