[事実関係]

 食品製造業等を営む同族法人である原告は、法人の創業者である代表取締役Kの辞任に際し、退職金3億円を支給する株主総会決議を経て支給し、この全額を損金に算入して確定申告をしたところ、税務署長は、平均功績倍率法によると、Kの最終報酬月額150万円に同人の勤続年数24年及び平均功績倍率3.9を乗じて算出した役員退職給与相当額を1億4,040万円と算定し、1億5,960万円が過大であるとして更正処分を行った。

 裁判所は、

「役員退職給与の適正額の算定基準としては、令72条が、当該役員のその法人の業務に従事した期間、その退職の事情、同種類似の法人の役員に対する退職給与の支給等に照らして判定すべきことを定めているところ、これを具体化する方法としては、従来から、平均功績倍率法、最高功績倍率法及び1年当たり平均額法が用いられている。このうち、平均功績倍率法は、当該退職役員の当該法人の功績はその退職時の報酬に反映されていると考え、同種類似の法人の役員に対する退職給与の支給の状況を平均功績倍率として把握し、比較法人の平均功績倍率に当該退職役員の最終報酬月額及び勤続年数を乗じて役員退職給与の適正額を算定する方法であり、適正に算出された平均功績倍率を用いる限り、その判断方法は客観的かつ合理的であり、令72条の趣旨に最もよく合致する方法であるというべきである」とする(札幌地判平成11年12月10日)。

[解説]

 資本を有する役員に支給された現金の内、労働の実体がなく、他の労働力商品の労働を疎外して資本関係からのみ支払われた現金は配当である。生産関係からみれば、生産手段を所有せず、生活過程と労働力商品を売って労働力再生産の土台とせざるを得ないことを義務付けていることからすれば、労働債務の支払が先でなければならない。

既に疎外された労働を 労働力商品に労働力、当融資先再生産の土台となるという実体のない方便たる価値属性を付与され、搾取された分のいくらかが生産関係終了の段階で支払われることが規定されたとしても、使用人は、資本関係、生産関係から退職の段階まで資本家に貸付を余儀なくされてきたのであって、労働の実体があって、生産関係から支払われる退職金に低い価値属性を付与し処分という法律行為により実体化することは、退職金名目で支払われる現実の労働について支払義務のある未払金をも疎外することである。

現金留保義務からなる経済実体のないフィクションである。帳簿記載事実の否定であり、事実確定の問題である。当該法人、役員に係る事実確定の全体化を尽くしたか否かが問題となる。判決は、客観という観念、理論に合致したかということ、金融資本家との資本関係、金融資本家の現金留保義務、現金留保集中過程から規定された法律の実体のない立法趣旨と交渉して退職金名目の現金に属性を付与しているのである。