[事実関係]

 建築工事業を行っていた原告法人は、消費税及び地方消費税並びに法人税につき、各々期限内に確定申告を行った。税務署長は、税務署の職員において原告について税務調査を実施したところ、原告法人の代表者が第三者を調査に立ち会わせることなどを要求して調査に協力しなかったことから、帳簿書類等を確認できなかったとして、法人税法127条1項1号(平成13年法律第129号による改正前のもの)の規定に該当するとの理由で、原告法人の平成10年3月課税期間以降の法人税の青色申告承認の取消処分をするとともに、本件各課税期間分の消費税について、推計課税によって課税標準額に対する税額を求め、消費税法30条7号の規定に該当するとして、同条1項(平成12年法第26号による改正前のもの)の定める仕入税額控除をしないで消費税等の税額を算出し、更正処分及び過少申告加算税賦課決定処分を行った。

 裁判所は、

「法人税法126条1項は、青色申告の承認を受けた法人に対し、財務省令で定めるところにより、帳簿書類を備付けてこれにその取引を記録すべきことはもとより、これらが行われていたとしても、さらに、税務職員が必要と判断したときにその帳簿書類を検査してその内容の真実性を確認することができるような態勢の下に、帳簿書類を保存しなければならないこととしているというべきであり、法人が税務職員の同法153条の規定に基づく検査に適時にこれを提示することが可能なように態勢を整えて当該帳簿書類を保存していなかった場合は、同法126条1項の規定に違反し、同法127条1項1号に該当するものというべきである(最高裁平成16年(行ヒ)第278号同17年3月10日第一小法廷判決民集59巻2号379頁)。

事実関係によれば、原告は、被告職員から本件税務調査において適法に帳簿書類の提示を求められ、これに応じ難いとする理由も格別なかったにもかかわらず、商工会事務局員等の立会いを要求し、被告職員の第三者の立会いのない状態での調査に協力せず、帳簿書類の提示を拒み続けたというべきである。そうすると、原告は、前記調査が行われた時点で所定の税務書類を保管していたとしても、法人税法153条に基づく税務職員による帳簿職員の検査に当たって適時に提示することが可能なように態勢を整えて保存することをしていなかったというべきであり、本件は同法127条1項1号に該当する事実がある場合に当たるから、税務署長が原告に対してした本件青色申告取消処分には違法はないというべきである」とする(千葉地判平成19年3月20日)。

[解説]

 推計が行うことができるか否かが問題となるのは、信憑という実体のない観念からではなく、帳簿の記載、原始記録その他全ての記録書類、資料、調査全ての方法を尽くして経済実体が把握できないと事実確定した場合である。記録を調査し確かめることができる実体を備えている以上、また当該資料以外の資料を調査し全ての事実を以て所得金額を更正できることからすれば、法人が一切の取引を記録していれば、法人の帳簿書類が経済実体に基づいているかが明らかでないことを以て青色申告承認の取消ができるものとは解することができないものと思われる。

課税の持つ現金留保を収奪し金融資本家に現金留保を集中させるという過程に鑑みれば、帳簿の提示を余儀なくさせる基礎は、帳簿書類が事実確定の全体化の土台となるものか否かであり、その旨を理由附記する義務がある。青色申告取消事由の帳簿書類の保存には帳簿の提示を含むものとする事務連絡があるが、これは金融資本家との生産関係上の義務にとどまる。納税者が一切の取引を記録した帳簿書類を備えているが、帳簿書類の提示に応じなかった場合、帳簿書類の提示が事実確定の土台となることが課税側の実体のない方便にすぎないのであれば、青色申告の取消事由とすることはできないものと解される。