[事実関係]
Xは、昭和60年5月24日、Mらとの間で、Mらが所有する土地を昭和60年から80年までの20年間賃借し、月額50万円の賃料を支払う旨の賃貸借契約を締結した。原告はM側が所有する第二の土地の上に建物を建築した。M側は、同年11月22日、Xに対して、本件土地の明渡し及び本件建物の収去を求め訴訟を提起した。原告とM側は、右訴訟において別紙の和解条項のとおり和解した。原告は、分割払いにした本件示談金以外に土地の使用に係る金員を支払っておらず、一方Mらは本件示談金の内、支払期日が到来した額を毎年不動産所得の収入金額として申告していた。Xが、裁判上の和解により支払義務を認めた示談金の一部を損金として示談金の科目で計上したところ、税務署長は、計上金額の一部を否認して更正処分及び過少申告加算税賦課決定処分を行った。
税務署長は、和解条項について、「本件示談金4,807万円は、分割払いとして本件引渡期限までに毎月23万円ずつ支払うものとされている一方で、引渡期限の途中においてXが土地を明け渡した場合には、右明渡時における残額の支払いを免除されるのであるから、示談金の各月の支払義務は、Xが現実に土地の明渡しを履行するまでの期間の経過に応じてその月毎に確定するものである。すなわち、各月毎に具体的な給付をすべき原因となる事実が発生することになり、本件事業年度の終了の時点である昭和63年2月末日において、支払期日が未到来である4,761万円は、法人税法基本通達2-2-12の(2)の要件に該当しない。また、右のとおり、Xが本来の引渡期限以前において土地を引き渡すことも可能であり、その場合にはその時点における残額が免除されることになるから、本件事業年度終了の時点において、Xが現実に土地を引き渡す期日は未確定であり、したがって、Xが支払うべき金額を具体的に、すなわち合理的に算定することはできず、同通達(3)にも該当しない」と主張する。
裁判所は、
「法人税法22条3項は、当該事業年度の損金の額に算入すべき金額について、当該事業年度の販売費、一般管理費その他の費用(償却費以外の費用で当該事業年度の終了の日までに、(1)当該費用に係る債務が成立していること、(2)当該債務に基づいて具体的な給付をすべき原因となる事実が発生していること、(3)その金額を合理的に算定することができるものであることの3要件が充たされていなければならないと解される(法人税基本通達2-2-12)。このこと自体については当事者間に争いがない。
次に争いのない事実によれば、Xは、本件土地建物について所有者であるMらから建物収去土地明渡訴訟の提起を受け、その後昭和62年12月7日に本件和解が成立したものである。右の事実にを前提にして、別紙和解条項を総合的に検討すれば、和解当事者間に合意された法律関係は、Xに本件使用の権原がないことを確認した上で、それを前提に、明渡しを猶予し、他方Xの不法占有に基づく損害賠償として、昭和62年12月31日までの本件土地占有による損害金及び昭和63年1月以降の第二の土地占有による月額23万円の賃料相当損害金の支払義務を定めたものであると解するのが相当である。
そうすると、本件示談金(昭和63年1月1日以降の賃金相当損害金は、Xの右土地に対する占有という事実があって初めて発生するものであることが合意の内容から明らかであると言わねばならない。
以上のとおり、本件示談金に関して、本件事業年度も終了の日である昭和63年2月29日までに発生した具体的給付をなすべき事実は、同日までのXの土地占有の事実のみであり、同年3月1日以降の占有の事実についてはまだ存在していない。したがって、同年3月1日以降の示談金に相当する部分4,761万円については、その具体的給付をなすべき事実が発生していないのであるから、法人税木ごん通達2-2-12の要件(2)を欠き、債務が確定しているとはいえない。和解成立時において本件示談金の債務が全て確定したとするXの主張は理由がないとする(横浜地判平成5年7月12日)。
[解説]
土地の所有者は、現金を土地に投下して、生産手段として貸与して労働を疎外して、労働力商品、投融資先再生産という価値属性を土台として賃料を規定し、現金留保を得る。土地の賃借人は、現金を建物に投下し、生産手段として貸与し労働を疎外して現金留保を得る。土地や建物が現金留保を産むのではない。土地や建物の所有や占有が現金留保を産むのではない。属性の付与である期間の経過により費用が確定するのではない。
生産手段として貸与し労働の疎外が始まった段階から、生産手段の貸与と労働の疎外が行われる都度現金留保が確定し、生産手段の貸与、労働疎外が行われていなければ、現金留保は産み出さず、生産手段の貸与、労働の疎外が行われている経済過程において現金留保が蓄積され、金融資本家の資本関係、現金留保義務、現金回収義務から経済過程に時間という属性を与え、1事業年度毎に費用収益を確定させ租税を徴収しているのである。このことは合意によって明らかにされるのではない。経済過程により規定されるのである。
価値属性たる事業年度末日の段階で見れば、その翌日以降に行った生産手段の貸与、労働の疎外、労賃の支払の実体がないということになる。