[事実関係]
更生手続開始前の1年以上前の決議により支給決定があった役員退職金について、
「取締役会の決議に係る原告に対する退職慰労金の支給決定は、昭和56年7月10日のされたものである。昭和57年6月17日にも同趣旨の取締役会決議がなされているが、このことは前示の経緯に徴すると、昭和56年の決議を再確認し、支給期日等を定めたものにすぎず、右決議の効力を左右するものとはいえない。
したがって、右昭和57年の決議はその性質上会社債権者を害するものではない。
のみならず、仮に本件否認が右決議で再確認された昭和56年の決議を対象としているものと解するとしても、株式会社の役員が受ける退職慰労金は、一般的にはその職務遂行に対する対価の一部たる性質を有するものであり、具体的にその金額を定めて支給を決定する行為それ自体は、少なくともそれが社内規定等の一般的基準に基づいてされ、金額的にも特に不相当なものでない限り、会社債権者を害する性質のものということはできない。
むしろ相当な額の退職慰労金の支給を受けることは役員の正当な権利であるから、更生手続においてこれを他の会社債権者の債権と平等に取り扱うことが公平の原則に合致し、相当というべきである。
そして、前示の事実からすると、控訴人に対する退職慰労金額が不当なものということはできない。そうだとすると、その余について判断するものまでもなく、右昭和56年の決議が会社更生法78年1項1号に該当する被控訴人の主張には理由がない」とする裁判例がある(東京高判平成元年12月14日)。
[解説]
退職金や決議に性質は備わっていない。法人は、資本関係、、生産関係、経済関係に基づいて現金留保をせざるを得ず、資本家や役員の意向に基づいて現金留保が行われるのではない。
退職金の支給は、公平、平等という観念、原則から規定されるものではない。退職するしないに意思はなく、退職は資本関係、生産関係に規定される。
資本家に所有された法人が第三者に有していた債権と退職役員への退職金債務と相殺することが法人の資本家の現金留保を減少させ、法人の債権者、担保権者の現金留保を害することになることを知っていたか否か、推認できたか否かということは実体がない。
役員は、資本家と生産関係がある使用人であり、労働の実体がある場合、労働が疎外され、退職の段階、生産関係の終了の段階まで、法人の資本家に貸付けをすることを余儀なくされてきたのであり、生産関係上、資本家は、労働を疎外した分につき、退職金を支払う義務がある。退職金は、生産関係上、退職後に課税最低限、最低生活費を下回る生活を余儀なくされる金額とすることはできない。
労働力商品に、老後の生活の土台という価値属性を付与して、現金支給をして、当該現金に低い価値属性を付与するということは、生産関係上できない。
資本を有する役員の場合には、資本関係を土台に、退職金名目で配当を法人に支払わせて、既に労働を疎外されている労働力商品に転嫁させることができるという既存の現金留保過程があるから、裁判所は、その余について判断するまでもなくとするが、全ての事例につき、労働の実体の有無、事実関係は全て摘出し問題提起をして確定しなければならない。