[事実関係]
原告法人は、賃借人らに貸室を引き渡したことにより、保証金の一割を貸室使用補償費として預託を受けた。原告は、これを将来返還すべきものとして預かり金勘定に計上しており、益金に算入していなかったところ、税務署長は、この部分については返還を要しないものと解されるとして、益金に算入する旨の更正処分が行われた。
裁判所は、
「原告が本件契約に際し、賃借人から預託を受けた保証金については、賃借人らは貸室明渡しに当たって保証金の一割を借室使用補償費として賃借人に支払うべき旨の約定が定められており、本件契約上補償費の支払が免除されるのは契約更新の場合だけであって、契約終了事由の如何を問わず、全て補償費の支払が義務付けられていること、実際には、契約終了の際、右補償費相当額を預託を受けた保証金から控除してその残額を賃借人らに返還すれば足りるという契約関係にあり、したがって、保証金の返還請求権と補償費の支払請求権の相殺は禁止されていないことが認められる。
そうすると、補償費相当額は保証金の預託を受けたときから返還することを要しない金員であるというべきである。補償費相当額は、契約の文言はともかくとし、貸室の引渡しを受けた時点において、もはや返還することを要しない金員であり、且つ、補償費相当額は、当該契約において当初から確定しているのであるから、賃貸人たる原告法人において収益処分をなしうる趣旨の金員として授受されたものすなわち権利金の一種と解するのが相当である」とした(東京地判昭和51年9月22日)。
[解説]
期待権の期待は意思であり、実体がなく、権利も法律行為によって実体あるものと社会に認めされるのであって実体のないものである。 契約は、金融資本家との資本関係から課せられた現金留保義務、経済関係を土台に自由意思に関係なく締結され、法律上の実体関係と経済関係が異なるということは成立し得ない。