[事実関係]
大学教授である原告には、昭和39年分には給与所得と雑所得があり、所得税法上の申告義務がありながら、確定申告を行わなかった。
税務署長は、これにつき、決定処分及び無申告加算税賦課決定処分を行った。
原告は、
①所得税法が事業所得には必要経費控除を認めるが、給与所得者にそれを認めないことは不公平であり、また仮に給与所得控除が概算による経費控除の意味を持っているとしても、実際の経費の金額が給与所得控除の額を上回っている場合にその超過額を認めないことは不合理であって、原告の場合も、実際の経費は給与所得控除の金額を上回っている(原告は給与所得控除を超過している事実及びその金額を立証していない)、
②給与所得の捕捉率と事業所得等の申告納税の対象たる所得の捕捉率との間には大きな較差があり、給与所得者は著しく不利益な取り扱いを受けている、
③事業所得等については、合理的理由のない各種の特別措置が設けられており、給与所得者は著しく不公平な税負担を負っている、として出訴した。
裁判所は、
「租税は、今日では、国家の財政需要を充足するという本来の機能に加え、所得の再配分、景気の調整等の諸機能をも有しており、国民の租税負担を定めるについて、財政、経済、社会政策等の国政全般からの総合的な政策判断を必要とするばかりでなく、課税要件等を定めるについて、極めて専門技術的な判断を必要とすることも明らかである。
したがって、租税法の定立については、国家財政、社会経済、国民所得、国民生活等の実態についての正確な資料を基礎とする立法府の政策的、技術的な判断に委ねるほかはなく、裁判所は、基本的にはその裁量的判断を尊重せざるを得ないというべきである。
そうであるとすれば、租税法の分野における所得の性質違い等を理由とする取扱いの区別は、その立法目的が正当なものであり、且つ、当該立法において具体的に採用された区別の態様は右目的との関連で著しく不合理であることが明らかでない限り、その合理性を否定することができず、これを憲法14条1項の規定に違反するものであるということはできないと解するのが相当である。
給与所得者は、事業所得者と異なり、自己の計算と危険とにおいて業務を遂行するものではなく、使用者の定めるところに従って役務を提供し、提供した役務の対価として使用者から受ける給付をもってその収入とするものであるところ、右の給付の額は予め定める定めるところにより概ね一定額に確定しており、職場における勤務上必要な施設、器具、備品等に係る費用の類は使用者において負担するのが通例であり、給与所得者が勤務に関連して費用の支出をする場合であっても、各自の性格その他の主観的事情を反映して支出形態、金額を異にし、収入金額との関連性が間接的且つ不明確とならざるを得ず、必要経費と家事上の経費又はこれに関連する経費との明瞭な区分が困難であるのが一般的である。
その上、給与所得者はその数が膨大であるため、各自の申告に基づき必要経費の額を個別の認定をして実額控除を行うことは、技術的及び量的に相当の困難を招来し、ひいては租税徴収費用の増加を免れず、税務執行上少なからざる混乱を生ずることが懸念される。
また、各自の主観的事情や立証技術の巧拙によってかえって租税負担の不公平をもたらすおそれもなしとしない。答申、立法経過によると、給与所得控除は①給与所得は本人の死亡等によってその発生が途絶えるため資産所得や事業所得に比べて担税力に乏しいことを調整する、
②給与所得は源泉徴収の方法で所得税が徴収されるため他の所得に比べて相対的により正確に捕捉されやすいことを調整する、
③給与所得においては申告納税の場合に比べ平均して約5か月早期に所得税を納付することになるからその間の金利を調整をする、との趣旨を含むものであるというのである。
しかし、このような調整は、前記の税制調査会の答申及び立法の経過によっても、それがどの程度のものか明らかでないばかりでなく、所詮、立法政策の問題であって所得税の性格又は憲法14条1項の規定から何らかの調整を行うことが当然に要求されるものではない。したがって、憲法14条1項の規定の適用上、事業所得等に係る必要経費につき実額控除が認められていることの対比において、給与所得に係る必要経費の控除のあり方が均衡のとれたものであるか否かを判断するについては、給与所得控除を専ら給与所得に係る必要経費ととらえて事を論ずるのが相当である。
しかるところ、給与所得者の給与所得者の職務上必要な諸設備、備品等に係る経費は使用者が負担するのが通例であり、また、職務に監視必要な旅行や通勤の費用に充てるための金銭給付、職務の性質上欠くことのできない現物給付などが概ね非課税所得として扱われていいることに考慮すれば、本件訴訟における全資料に徴しても、給与所得者において自ら負担する必要経費の額が一般に旧所得税法所定の前記給与所得控除の額を明らかに上回るものと認めることは困難であって、右給与所得控除の額は給与所得に係る必要経費の額との対比において相当性を欠くことが明らかであるということはできないものとせざるを得ない。
所得の捕捉の不均衡の問題は、原則的には、税務行政の適正な執行により是正されるべき性質のものであって、捕捉率の較差が正義衡平の観念に反する程に著しく、且つ、それが長年にわたり恒常的に存在して租税法自体に起因していると認められるような場合であれば格別(本件記録上の資料からかかる事情の存在を認めることはできない)、そうでない限り、租税税制そのものを違憲ならしめるものとはいえないから、捕捉率の較差の存在をもって本件課税規定が憲法14条1項の規定に違反することはできない」とした。
補足意見においては、必要経費の額が給与所得控除の額を著しく超過するような場合には、当該所得税法の予定する給与所得に当たるかどうかについて、慎重な検討を要することはいうまでもないとするものが見られる(最判昭和60年3月27日)。
[解説]
収入、所得すなわち、これら留保現金、租税、事業には属性は備わっていない。実体があるのは、源泉の投下を源泉とする労働疎外による現金留保である。
給与収入は、労働を疎外し、労働者に、生殖による労働力商品の再生産の土台となる金額という属性を付与して、支出した現金に価値属性を込め、労働力の名目で付与した価値属性を実体あるものと社会に認めさせたものであり、現実の労働に応じた金額ではなく、資本家が投融資、現金留保の移転を受けたことによる現金留保義務に基づくものである。
給与収入を得る土台となった費用を給与収入の必要経費とすると、必要経費か否かが、資本家の現金留保義務に基づくものとなる。
現実の生産関係を見れば、給与収入の必要経費は、労働の土台として、留保現金を源泉に投下せざるを得なかった支出ということになるのである。裁判所は、必要経費を認める認めないにつき、経済実体上の事実関係の確定からでなく、法解釈を立法目的と交渉して、現象と法則に基づく合理不合理から法解釈、法を包摂しているのである。
労働者は資本家との資本関係に基づき、生産手段が貸与され、生産関係に基づき労働する。裁判所は、あり方という属性に基づくということを主張し、裁判所がいう判断とは、事実関係確定の全体化、問題抽出提起の全体化を行わないで断じるということである。
経営者は使用人であって、損害賠償義務はないが、自由意思に基づく経営責任を実体化され、資本家から損害賠償義務を負わされる。資本家の危険負担は実体のない方便である。現実には損害賠償義務コストは、労働者に転嫁できるからである。
損害賠償義務を負わされ、生産関係上資本家が負担する義務がある生産手段に要したコストを、労働者が生産関係上生産手段の購入を負担せざるを得ない場合には、給与名目で支給された現金であっても事業所得の収入と経済関係が重なることもあるであろう。
給与所得控除は、現実の現金留保の支出を疎外した実体のない価値属性を給与所得者に付与したものである。現象に基づいた推計である。
個々の給与所得者の経済実体に基づく必要経費の問題を切り捨て収束したもので、全事実関係の確定、問題抽出提起の全体化する過程とは乖離するものである。現象面から見れば、特定の産業法人の現金留保義務、過程に基づいているように見えるが、現実に当該産業法人は、国際金融資本家に所有されており、租税、租税特別措置は、現実には、国際金融資本家の現金留保義務、組織再編を通じた現金留保過程に基づくもので、個々の所得税法上又は法人税法上の法人の経済実体を疎外した、すなわち土台となる経済実体のないものである。
生存と生殖による再生産は金融資本家との資本関係、金融資本家の現金留保義務から義務付けられている。
現実には金融資本家の資本関係、現金留保義務に基づいた価値属性により疎外されるが、課税の土台となるものは現実の所得すなわち実体があると確定させた現金留保である。
所得税法上の法人である労働者は、資本経済においては、現金留保がないから、現実に要した経費と給与所得控除の金額との選択の権利は与えられておらず、現実に要した経費を控除して現金留保を計算せざるを得ない。
生産手段を所有せず、労働力と経済過程に付与された時間を売り、労働を疎外され、実体のない価値属性を付与されることでしか生存、生活の土台とせざるを得ない現金を取得できない。金融資本家との資本関係により、給与金額と源泉所得税が前貸しせざるを得なくさせられているという現実がある。
現実の生産関係、生存、労働力の再生産を義務付けていることから、生産関係上労働者に支払う義務がある前貸し分の利息は、給与所得から所得計算上控除されなければならない。給与所得控除の根拠となる事実、給与所得控除の規定、算定の過程は明らかにされていない。
全事実関係の確定、問題抽出提起の全体化による給与所得控除の見直した上で、給与所得控除に満たない場合には、給与所得控除の金額を必要経費とすることは、金融資本家の生産関係上の義務である。
労働者は資本関係、生産関係、現金留保義務、労働力商品再生産義務があるから、事業所得者は資本関係、現金留保義務があるから、観念に基づいて経費を支出できないが、勤務に関連する費用と家事経費及びその関連費用との区分が不明瞭であることを裁判所は主張するが、これは、事業所得における事業に関連する費用と家事関連費についても言えることである。
組織再編による現金留保の土台という現実の課税関係、課税の過程に鑑みれば、給与所得者の数が膨大であり、租税徴収コストが増大することは実額控除を認めない理由、原因とはならない。ロックフェラーをはじめ国際金融資本家はシャウプを使用して、給与所得者の年末調整を税務行政機関が行うことを主張していた。
税務行政機関を使用し、生産関係がある国際金融資本家は中央銀行を所有する民間銀行を所有し、経済実体に関係あるなしにかかわらず、現金を発行できるから現金が不足することはない。公務員は生産をしない無産階級であるから、投融資による現金留保ができないから、国際金融資本家は投融資をしないだけである。
立証技術の巧拙が租税負担に差を生じる原因となるのではなく、技師を使用したり、会計ソフトを購入したり、学習に投資する現金留保があるか否かが原因である。給与所得が名目で他に架空資本を所有する、労働実体のない金融資本家であることが原因である。
全資料に基づいて給与所得控除の額を超えないとするが、金融資本家の現金留保と給与所得者の現金留保の疎外という課税関係、課税の過程に鑑みれば、納税者の主張立証だけでなく、調査を行って、事実関係を確定し、決定処分の理由を附記する義務があるのであって、全資料に基づいて決定したとは言えないのである。
当該事例をはじめ給与所得の課税の問題は、正義衡平、公平平等といった観念や憲法上の問題ではなく、全資本家の現金留保からの拠出を所有する金融資本家、税務行政機関をを使用する金融資本家と労働者の資本関係、生産関係の問題である。