[事実関係]

給与所得者たる原告は、昭和51年自己が所有する自動車を中央分離帯にぶつける事故により破損させ、修理することなくスクラップ業者に3,000円で売却した。原告は、右売却により、本件自動車の帳簿価額30万円から売却価額を控除した29万7,000円を譲渡損失が生じたとし、給与所得と損益通算し、還付金額3万4,800円であると確定申告を行った。

税務署長は、右譲渡損失の金額は給与所得金額と損益通算することはできないとして、更正処分を行った。

一審判決は、

「本件自動車が通勤・業務のために使用された走行距離、使用日数がレジャーのために使用された走行距離、使用日数がレジャーのために使用されたぞれを大幅に上回っていること、車種が大衆車であることや現在の自家用自動車の普及状況等からすると、本件自動車は生活に通常必要な動産に該当し、法9条2項1号によりその譲渡の金額はないものとみなされるので損益通算がなされる余地はない」として原告の請求を棄却した。

二審判決は、「本件自動車が生活に通常必要なものと見られるのは、原告が通勤のため自宅・駅間において使用した場合のみであり、レジャー用に供することは生活に通常必要なものと見られるということはできないし、勤務先の業務に供していても雇用契約上業務に供する義務のない本件では生活に通常必要なものとは言えない、それは本件自動車の使用全体のうち僅かな割合を占めるにすぎないから、本件自動車は、法69条2項いうせ生活に通常必要でない資産に該当し、同条1項による損益通算は認められない」とした。

最高裁も原審たる高裁判決を維持した(最判平成2年3月22日)。

[解説]

所得税法9条1項9号によれば、「自己又はその配偶者その他の親族が生活の用に供する家具、什器、衣服その他資産で政令に定めるものの譲渡による所得」は非課税とされ、令25条は、右非課税となる資産の範囲として「生活に通常必要な動産」の内、貴石、貴金属や書画、骨董等で一定額を超えるもの以外と定める。本件自動車が生活に必要な動産に該当すれば、非課税の譲渡損失として損益通算の問題は成立しないということになる。

全ての資産につき、個々に現実の使用をみていけば、生活に通常必要な資産か必要でない資産かに二項対立できるものではない。自動車には、業務用、生活用、レジャー用、大衆車という属性は備わっていない。資本家が自動車に投下して、業務用という価値属性を与えれば、その減価償却費や駐車代を所有する法人の損金となり、減価償却が現金流出を伴わないことと、税負担が軽減されることによって、現金留保ができる。

給与所得者は、生産手段を所有せず、労働と金融資本家が属性として経済過程に付与した時間を売って生存、生活の土台たる現金留保の土台としている。自動車を含む全ての資産は所有しているだけでは現金留保を生み出さず、現実に貸与し、生産手段にし、労働を疎外して現金留保を生み出すから、収入を得るためという実体のない目的ではなく、現実の使用から損金算入、必要経費であるかが規定される。

労働者が給与による現金留保を投下した自動車が資本家の業務に提供させられれば、生殖による再生産の土台となる労働過程は短時間という属性が付与され、その分とその分プラス、無償労働、サービス残業が増加し、生産関係上、資本家が負担する義務がある車両に係る取得費、ローン、維持の土台となる費用が給与所得から控除されることで労働者に転嫁されているのである。

通勤手当は、現実には、労働を疎外して生殖による労働力商品の再生産の土台となるという属性が付与された給与の一部であり、通勤手当は名目であって、生産関係上は、労働を疎外することなく現金を支払う義務があるから、現実の労働から通勤手当を控除して現金を支給することはできないし、車両関係費の必要経費算入を否定する理由とはなりえない。

経費給与所得者が給与収入を原資に自動車を購入し、現実に通勤に使用し、生産関係上、勤務先の営業に提供させられている場合には、レジャー用、生活用の属性が付与され、全く必要経費に算入することが認められていない。

給与所得のみを生存の土台をするのではなく、架空資本、生産手段を有する給与所得のある納税者はどうか。

自動車、ゴルフ会員権、架空資本を含む全ての資産には価値属性は付与されず、金融資本家の資本関係、資本関係が移転させられたことによる現金留保義務を土台に、組織再編を行い現金留保を行う過程に応じて、資産に付与する価値属性が規定、改定され、租税は、生産、商品の交換過程と所得、納税額確定後における労働の疎外、組織再編による現金留保の過程の土台となっている現実がある。

労働者は、資本家との生産関係により労働を疎外され、労働により得た現金に価値属性が付与され、労働力に付与された価値属性が実体あるものと社会に認めさせられ、給与収益から現実にかかった収入の土台となる費用を控除して計算した所得を疎外され、給与所得控除という価値属性に基づいて担税力という価値属性が確定した現金留保に付与され、課税によりそれが実体あるものと認めさせられている。

給与所得課税も金融資本家の現金留保の過程の土台となっているのである。資本家であると共に、労働の実体がない、名目上、使用人たる経営者となっている所得税法上の法人が、高い価値属性を付与された資産に現金を投下し、使用して生産、労働疎外、現金留保の土台となる自動車やゴルフ会員権や架空資本をスクラップ業者や金融資本家が所有する金融機関に無償に等しい価格で買い取らせ、給与所得と損益通算することや所有する法人の損金とすることを法が認めれば、現実には配当であるにもかかわらず、課税を免れることができてしまう。

全く生産に使用することなく売却して取得価額を損金、必要経費にして譲渡益を圧縮できてしまうのである。