[事実関係]

 12月末を事業年度末とする原告法人は、N法人が西ドイツの法人に輸出を行うブラジル法人向けの濾過装置を売り渡す契約をN法人と締結した。代金支払条件は船積み完了月の翌月に95%、船積み完了月の20か月後5%、神戸港渡しFOBとの約定でN法人に売り渡すという契約であった。

原告法人は事業年度末までに船積みは行ったが、事業年度末までに本件濾過装置の性能たってい義務を履行しておらず、未だ引渡しを完了していないとして、受領金員全額を前受金勘定に、本件濾過装置の製作に要した費用を仕掛品勘定に計上した。

税務署長は、原告は、濾過装置の性能達成義務を負うものではなく、船積み時点でN社へ引渡しを完了しているとしてその収益は船積み日を含む事業年度の所得であるとした。裁判所は、船積み時点を収益計上時期とすることも別段不合理ではないとしながら、原告としては検収時との選択可能性を有しているために、いずれかの基準を選択の上継続的に採用することができるというに過ぎず、FOB取引であるが故に船積み時点を収益計上時期としなければならないわけではないとする大阪地判昭和61年9月25日)。

[解説]

 納税者に売上計上基準を自由意思で選択することはできない。金融資本家が資本関係を土台に規定した基準の中から選択せざるを得ない。

本件濾過装置は、船積み時点で物件の所有権及び危険負担が買主に移転するFOB条件で販売されたものとされる。経済利得を得て法律上の権利を得る過程で法律上の権利を取得するのは船積み時点で、危険は実体がないから、金融資本家が規定した時間という属性付与における船積み時点で、買主が買主に損害賠償義務を負うというものである。

濾過装置は、買主において検収を経た後でなければ、既に購入している労働力商品に生産手段として貸与できないから、濾過装置に付与された価値属性が、売主が現金で受け取ることにより、受け取った現金に金融資本家に規定された価値属性を込められて、濾過装置に付与された価値属性が実体あるものとなる。

労働の疎外を土台に利潤を得て、交換により取得した現金によって現金商品、資産の所有が規定される。すなわち貨幣は主人を持たないのである。船積み段階では経済上の所有と法律上の所有は一致するが、その価値属性が実体あるものとなる、売上金額が確定するのは、現実には、納品前の、引き渡しを終える前の、検収段階であるとみて、裁判所は事実に認定により与えた属性を、事実の確定とした。