[事実関係]
武富士は、香港の現地法人を買収し、代表者の長男は、平成9年から12年を含む約三年半、香港現地法人の取締役業務に従事し、従事日数は168日、その間の香港滞在日数割合は65.8%、日本滞在割合は26.2%であった。長男の資産の99%は、日本に存在していた。武富士代表者とその関係社が出資口数の全てを所有するオランダの非公開有限責任会社に、武富士代表者及び関係者は、武富士株1569万8000株譲渡し、公認会計士の進言によって、長男に、武富士代表者とその関係者から上記オランダ持株会社の出資口数を贈与したとされる。最高裁は、相続税法1条の2によれば、贈与により取得した財産が国外に所在するものである場合には、受贈者が当該贈与を受けた時に国内に住所を有することを、当該贈与についての贈与税の課税要件とし(同条1号)、ここにいう住所とは、反対の解釈をすべき特段の事由はない以上、生活の本拠、すなわち、その者の生活に最も関係の深い一般的生活、全生活の中心を指すものであり、一定の場所がある者の住所であるか否かは、客観的に生活の本拠たる実体を具備しているか否かにより決すべきものと解するのが相当であるとして、香港の居宅を生活の本拠たる実体を有していたと認定した(最高裁平成23年2月18日)。
[解説]
住所を有するか否かの問題は、贈与税の回避の意思目的、居住の意思といった主観、唯心の問題ではな民法上の住所規定に基づいて上記判決は住所に係る判示をしている。住所を有するか否かは、客観という観念ではなく、現実に当該土地において、経済を土台に生活をしていたという事実、実体があるか否かが問題になると思われる。判決においては、オランダ持株会社の出資口数の贈与については、当時の相続税法10条1項6号(現10条1項8号)に基づいて国外資産として、国外資産の贈与に該当するかは問題とされなかった。しかし、オランダの持株法人が所有している武富士も所有しているから、武富士はオランダの持株会社の出資者との資本関係に基づいて内部留保を蓄積せざるを得ない。長男は、オランダ持株会社と武富士との間の資本関係、経済関係、生産関係、それに基づいて実体化させて蓄積した内部留保を取得した。オランダに所在する法人から株主に支払った配当は非課税であるという規定は存在していたが、それとは異なる経済関係の武富士の株式をオランダの持株会社に譲渡した際の譲渡価格、オランダの持株会社の出資口数の譲渡価額が問題とされなかった。インド法人を所有する外国法人の株式の売買に係る譲渡益について、経済実体はインド法人の買収であると、ボンベイ高裁2010年9月8日におけるVodafoneの事例では問題提起されている。 資本家所有物である国家を2以上またがって経済利得を有していて、住所が単一であるとすると、複数の土地における労賃搾取による内部留保蓄積が行われている経済実体から乖離し、租税を媒介に、一の国家を所有する資本家による租税を媒介にした労賃搾取が成立している場合には、複数の住所地ということも有り得ないとは言えないであろう。