[事実関係]

傷害保険特約により従業員の死亡に伴って受け取った法人が当該保険金収入を仮受金計上したことにつき、原処分庁が益金計上すべきであるとして更正処分を行ったが、国税不服審判所は、請求人のいう労使の合意書は、災害補償規定を兼ね、雇用者である請求人は、従業員に死亡が生じた場合に死亡保険金の50%を支払うことを遺族補償として保証したこと、遺族に対し具体的な給付をすべき事実が生じていること、被保険者の遺族は同意書に基づいて死亡保険金の50%以上を請求する権利があると推認されるとして原処分の一部を取り消した事例がある(平成20年5月30日裁決)。

[解説]

当該事例についてみれば、労働者に支払う遺族補償金は、損金に算入される費用であると思う。しかし、裁決の理由付けにはいくつか問題がある。

労働者を使用する側には、労働力の提供について日割りで.確定し、日々給与を支払う義務があり、給与を支払って生存させる義務がある。生存させる義務が履行しえなければ賠償する義務が存する。現実に資本家は労働者を死亡させているという事実がある。

資本家には、資本家その者の自由意思に関係なく、労働者の自由意思に関係なく、労働者の側から請求しなければならないという労働者の権利ではなく、法律行為をするしないの自由意思の介在しない法律行為によってその給付を社会に認めさせることに成功しなければならないものではなく、社会通念や倫理からではなく、投資先からの保険金の収受に関係なく、資本家の内部留保、資金繰りに関係なく、生産関係上、資本家の側が当該賠償義務を有するのである。

合意の有無を要件としてしまうと、労働者が自由意思に基づき受領しなかったから労働者の自己責任であるとの主張を正当化することに成功しうるのである。国税不服審判所は、合意書に具体的金額のが示されていなかったとして遺族補償金の損金算入を認めないことを主張したが、労使に書面による契約があるなしに関わらず、生産関係上、労働者の勤続年数、労働量、過去の生活費、逸失した生活費、死亡の原因事実から賠償金額を計算する義務があるのである。