[事実関係]
分掌変更に伴って支給することとした退職金が分割支給されたことにつき、分割支給された各事業年度に損金経理したところ、分掌変更のあった日の翌事業年に支給された金員は、退職給与に当たらないとする更正処分を課税庁が行い、それが国税不服審判所において維持された事例がある(平成24年3月27日裁決)。
前代表取締役は、平成19年8月31日に代表取締役を辞任し、非常勤役員となった。19年8月10日から臨時株主総会及び取締役会を開催し、退職金総額250,000,000円を支払うこととし、平成19年8月末日75,000,000円、平成20年8月以降3年以内に残額を支払うこととしている。議事録の保管はない。当該残額につき、125,000,000円は、平成20年8月29日に支払われたが、残りの50,000,000円については22年8月期現在支払われていない。
本件役員の月額報酬は、分掌変更に伴い、月額870,000円から400,000円となった。本件分掌変更前において請求人の株式を35%所有していたが、分掌後における請求人株式の保有割合は10%である。
第一回、第二回の退職金支給については、売上をその原資とし、借入を行っていない。平成19年8月末現在の現預金残では、退職金全額を支給しえない。一括支給しなかったことにつき、黒字申告を組む目的は、翌事業年度における銀行借入れを円滑に実行することにあるとした。
前代表取締役は、本件分掌変更前は、ほぼ毎日出社し、9時から17時まで勤務していたが、本件分掌変更後は、週に1、2度、時間も不定期で出社するのみで、本件分掌変更後の代表取締役としての業務は、現在の代表取締役が行うことになった。
審判所は、
「法人税法34条は、内国法人がその役員に対して支給する退職給与は、不相当に高額な部分を除き、損金の額に算入する旨規定しているところ、役員退職給与とは、その支出の名義いかんに関わらず、役員が会社又はその他の法人を退職したことにより支給される一切の給与というと解すのが相当である。
ところで、本件通達は、法人が役員の分掌変更等に際し、その役員に対し、退職給与として支給した給与について、その支給が例えば、常勤役員が非常勤役員になったことなど、その分掌変更等により、その役員としての地位又は職務の内容が激変し、実質的に退職したと同様の事情にあると認められることによるものである場合には、これを退職給与として取り扱うことができる旨定めている。
この定めは、役員の分掌変更により実質的に退職したと同様の事情にあると認められるときは、多くの企業で実質的に退職とみて退職給与を支給する慣行があることから、このような企業実態に配慮して、一定の要件の下に退職給与として損金算入を認める特例を定めたものであり、当審判所においても相当と認められる。
そして、退職によらない役員退職給与の損金算入を例外的に認める本件通達は、恣意的な損金算入などの弊害を防止する必要性に鑑み、いたずらにその適用範囲を広げるべきではなく、原則として、本人が実際に支払ったものに限り適用されるというべきであって、その法人の資金繰り等の都合による場合など、当該分掌変更等の時に当該支給がされなかったことが真に合理的な理由によるものである場合に限り、例外的に適用されるというべきである。
本件役員は、本件分掌変更後により請求人代表権を有しなくなるとともに、非常勤取締役として実質的にも請求人の経営に直接関与しなくなったことが認められ、その報酬もおおむね50%以上減額されていることがが認められることからすると、本件分掌変更は、本件通達に定める実質的に退職したと同様の事情がある場合に当たると認めることができる。
しかしながら、本件第二金員は、本件分掌変更から1年近くを経て支給されたものであり、本件分掌変更の時に支給された金員とはいえない。
そこで、本件分掌変更の時に当該支給されなかったことが合理的なちゆうによるものであるかどうかについてみると、平成19年8月における現金及び預金の残高のみでは、本件退職慰労金額を支給出来る状況にはなかったことがうかがわれるものの、請求人の代表取締役は、本件第二金員の支給する時期に関する事情について、当座貸越額に余裕はあるものの、先行して資金需要があるなどの資金繰りの事情によるものである旨説明するにとどまり、本件退職慰労金に関する株主総会議事録や取締役議事録が存在せず、請求人の主張する資金需要を認めるに足りる具体的な資料もない。
以上の事実及び証拠からすると、本件分掌変更から、請求人の役員退職慰労金規定で定められた支給期限である2か月を大幅に経過する1年後に本件第二金員が支払われることとなった事情やその支払額の決定に関する経緯が明らかでないというほかない。
かえって、本件退職慰労金の総額に関する株主総会議事録又は取締役会議事録は存在せず、本件計算書においては、「平成19年8月末日 75,000,000円、平成20年8月以降残額とする(3年以内)」と、本件第一金員を除く退職慰労金について支払時期やその支払額を具体的に定めずに漠然と3年以内とされており、本件退職慰労金の支払に関しては、請求人の決算の状況を踏まえて支払がされていることがうかがえることからすると、
本件第二金員をその支払の属する事業年度において損金算入を認めた場合には、請求人による恣意的な損金算入を、認める結果となり、課税上の弊害があるといわざるを得ない。
以上によれば、本件分掌変更の時に、本件第二金員が支払われたことが合理的な理由によるものであると認めるに足りる証拠はなく、本件第二金員を本件通達に定めに基づき退職給与として取り扱うことはできないというべきである。
この点に関し、請求人は、赤字決算を回避する目的は、翌事業年度における銀行借入を円滑に実行すうrことにあり、これが資金繰りの事情に該当する旨主張するが、請求人の主張する事情は、翌事業年度以降における銀行融資を円滑に実施するにとどまるのであって、分掌変更等に際して支給することができなかった合理的な理由に当たるとはいえないから、この点に関する請求人の主張は採用できない。
また、請求人は、本件第二金員について法人税基本通達9-2-28の定めが適用されるべきであるとするが、同通達は、実際に退職した役員に対する退職給与の損金算入について定めたものであって、本件役員に退職の事実はないのであるから、本件第二金員を退職給与として取り扱うべきでないことは、上記のとおりであるから、請求人の主張は採用できない。
本件第二金員は、本件役員に対する退職給与とは認められないところ、その支給は、一時的なものであり、毎月定額のものではないことから、請求人から本件役員に対して支給された臨時的な給与すなわち賞与であると認められる。」とした。
[解説]
前代表取締役は、法人の労働者との資本関係のフィクションに基づき、労働を疎外して利潤、内部留保を蓄積せざるを得ないという関係はある。
株主総会、取締役会の議事録の書面がなかったのであるが、株主と役員の間の資本関係、生産関係に鑑みれば役員の自由意思で退職金の支給金額、支給時期をはじめ全ての事項を決定することはできない。
破産関係法上、退職給与は最も優先される債権とすることを社会に認めさせることに成功したが、現実には、退職金の支給は、金融資本への支払や配当よりも後回しにされているから、退職金の原資が借入れによっているかではなく、その土台となる内部留保、事業資金が借入れのフィクションによっているかについて調査官は調べる必要がある。
しかし、裁決事例集の文面を見る限りそのことについては明らかではない。
翌事業年度における金融資本によりフィクションされた資本関係を前提に直近事業年度につき、黒字決算を組むことをせざるを得ないことから、利益の調整を行ったとすれば、それは、当該法人資本家の自由意思ではない。但し、金融資本との資本関係が既成事実として形成されていなければ、全ての資本に投融資する資本家が雇用する課税庁に方便として受け取られ得る。
しかし、金融資本家との資本関係が形成されるまでのプロセスと黒字決算を行い続けざるを得ないプロセスに鑑みれば、法人資本家に利益操作するしないの自由意思があったとは思われない。
課税庁や司法を所有する資本家が、退職金の計上に当たっては、利益操作目的や恣意的な損金算入を根拠に挙げて処分を行い、処分を維持したことについては問題があるのである。
当該役員に支給がされなくても、利潤を留保し、資本関係のフィクションを再度受けることで、労働を疎外し、国際金融資本に前貸しさせることができ、労働力に貸付をフィクションし、労働を疎外し、国債の返済を負担させることができるから、資金繰りにより支給ができなかった場合にも、当該役員に支給した商品の評価を損金に算入することを、国際金融資本は認めている。
退職役員に商品が支給されず、国際金融資本が法人の代表労働者を使用して、労働力に貸付をフィクションされており、法人において退職金の評価が確定していないから未払段階においては損金を計上することはできず、支給した段階においても、労働の評価を超える部分に金額は、国際金融資本と共に、労働力に資本関係をフィクションしてきたのであるから、配当ということになるであろう。
同裁決では、理由付記についても争われているが、審判所は、法解釈を法的評価という語を用いて、経済事実に基づかず、事実関係に属性を付与することがあるかの如く述べているという問題がある。
事実認定とは、全ての経済事実の把握、確定、問題提起、法の解釈、問題提起、法の適用までの一連のプロセスを言うのであって、法解釈を異にする場合の更正と帳簿記載事実の否認による更正の場合に更正理由の付記に差異がありうるかという問題は成立しえない。