2011年の国税通則法改正に伴って、税務調査手続きに係る通達を国税庁は公表した。その中で、質問検査を行うことの事前通知を要しないケースを例示している。
通達は、納税者において事前通知を行うことにより、
「1.127条2号又は同条3号に掲げることを助長すること」、
「2.逃亡すること」、
「3.調査に必要な書類その他物件を破棄し、移動し、隠匿し、改ざんし、変造し、又は偽造すること」
4.「質問検査時に適正な記帳又は書類の適正な記載と保存を行っている状態を作出すること」
「5.その使用人その他の従業者若しくは取引先又はその他の第三者に対し1~4に掲げる行為を行うよう、又は調査を控えるよう要請する(強要又は買収することを含む)こと」「税務代理人以外の第三者が調査立会いを求め、それにより適正な調査の遂行に支障を及ぼすこと」について合理的に推認されれば事前通知を要しないとする。
すなわち理論に即して推認することができれば、経済関係から乖離していても事前通知を要しないとされうる。5.については、同族株主の判定の明細、受取配当金の益金不算入の明細、寄付金の損金不算入の明細、勘定科目内訳書借入金、有価証券、保険積立金の頁を見れば、資本関係、経済関係に基づいて推論しうるが、全ての事実関係を摘出して問題提起をしつくす必要がある。2.の前提として、調査の実施を困難にすることを意図し、と唯心論に根拠を求めていること、4.の前提として過去の違法又は不当な行為の発見を困難にする目的で、と不当な行為と属性を付与する、べき論に根拠を求めていることや目的論に根拠を求めているのである。資本家所有の課税庁に大幅な裁量を与えているのである。
通達は、適正という文言が多く、適正すなわち正義という属性を与えそれに適うことを拠り所にしているところも問題である。調査に必要な書類「その他物件」と調査に必要な書類に含まれない別個の物件について現実には制限がないと言いうる範囲について、上層である法則や主観すなわち観念である経験則、原理、現象に基づいて破棄から偽造までのいずれかを推認することができれば、事前通知なしに質問検査を行い得るのである。
8.の事業実態が明らかでない場合には事前通知を要しないとしているが、調査を行うことの原因、理由が説明できていないのであるから、調査を行う前に事実関係の把握、問題提起を行っていないということであり、事前通知を要しないとする理由とはなりえない。7.の相応の努力をしたが、応答を拒否された、応答がなければ、事前通知を要しないとすることは、納税者が経済関係に基づいて応答を拒否、応答ができなかったというのであれば、納税者の拒否理由に対して、調査を行うことの必要を経済関係に基づいて説明して調査の延期を含めた交渉を別の日に行うことが可能であり、事前通知を要しないことの理由とはなりえないであろう。