[事実関係]

エントランス回線に係る施設利用権(以下、エントランス使用権という)を取得した法人の資本家が、取得した当該施設利用権を少額減価償却資産として損金算入した件につき、税務当局が、エントランス回線使用権の集合体を一の資産とみて更正処分を行った事例がある。最高裁まで争われたが、司法側は、一回線を取引単位として取引しうるとして法人の資本家側を勝訴させた(最判平成20年9月16日)。

[解説]

経済的利益を、対価を支払って所有し、それを自由意思に関係なく無形資産として帳簿に登記するという商法上の行為を行って、当該権利を社会に認めさせ、さらに相互接続協定を締結し、法律上の権利を強化したというプロセスが存在する。役務提供を受けた時とエントランス使用権と協定上の地位はプロセスにおける段階が異なる。資産計上時は、役務の提供を受け、使用が可能となった時である。よって、エントランス回線使用権は、繰延資産又は無形資産ということになる。法律による排他的な権利というものであるから繰延資産と見れば、減価償却資産ではないことになる。

しかし、法律を媒介に資本家は減価償却資産として社会に認めさせることに成功している。エントランス回線使用権を減価償却資産であるという前提に立った場合、資本家は税務署職員に、通常という属性論により、1組の判定を行うことを命じている。

大規模法人の資本家同士の取引、さらに、その中でも営業譲渡に係る取引と大規模法人の資本家と中小零細法人の資本家及び中小零細法人の資本家同士の取引とではそれぞれの経済関係は異なっている。既成事実として本件は、中小法人、個人事業者と取引しているのではない。大法人の資本家と中小法人の資本家との取引、中小資本家同士の取引としてありうるかどうかを前提にすることは、問題の建て方として誤りがあると言えるであろう。

大規模法人の資本家同士の営業譲渡において既に成立している取引を前提に1組の取引単位を考える必要がある。譲渡法人の複数の労働者を搾取して譲渡損益をほとんど生ぜじめない低廉な価額で譲渡が行われ、譲受会社の資本家は、当該権利を土台に複数の取引先事業者の労働者を永続して搾取することを前提にするわけであるから、最終消費者が一回線又は二回線で使用が可能か否かとは経済関係が全く異なり、全く別個の問題である。

譲受会社の資本家がエントランス回線使用権を取得した後、一回線で取引可能とする見解が経済関係に即していると言うのであれば、譲渡されたエントランス使用権全体を1組とみた場合も同じであるが、使用した回線については、社会関係上の制約である期間の経過を加味しながら使用頻度に応じて按分し、未経過分、未使用を前払費用とし、未だ使用していない、使用しても売上が建っていない回線分については譲渡会社の資本家より役務の提供は受けているから前払費用ではなく、役務提供がなされうる棚卸計上を要することとなるものとすることが経済関係に即していると思われる。

遊休固定資産とみるのが経済関係に即しているというのであれば、一度も事業に使用されていない資産は償却できない。資産を生産手段にして貸与し、労働を疎外して初めて現金留保ができる。電話加入権が、価値という属性がなく労働者搾取の方便であるとみることができ、法が償却できないとしているところを斟酌すると、エントランス回線使用権が減価償却できると法が言っているのも方便であると思われる。