[事実関係]
内国法人である工務店がシンガポールに子会社を設立し、ノウハウ使用に係るロイヤルティ支払いと人材派遣料を支払ったことにつき、事業の実体がないことを根拠に更正処分が行われ、当該更正処分につき争われた事例で、原告納税者の主張が認められたものがある(東京高判平成18年3月15日)。
[解説]
まず、課税庁側がいうロイヤルティの支払が原告資本家の相続対策目的であったか否かという目的論は、納税者が主張する目的であろうと、課税長側が主張する目的であろうと、目的は方便にすぎないから、ここでは問題にする必要がない。
資本関係があっても、親会社、子会社は、自由意思の介在なく登記せざるをえないことをもって、経済的利益を法律上も利益とするプロセスに鑑みれば、別個独立した法人である。取引先第三者たる法人の資本家や金融資本家と当該法人の労働者にも搾取非搾取の関係がある。原告又は子会社が、商標やノウハウに価値という属性を込め、それを労働者搾取の手段として使用し、前提となるのは、既成事実として、原告親法人の資本家とシンガポール子会社との間に経済関係が創設されていたか、所得の存在があったか、すなわち、生産手段、労働力を所有し、中間搾取を行い、利得を得ていたかである。
親会社の資本家が労働者搾取により獲得した内部留保が軽課税国に転嫁され、税負担を免れ、内部留保が蓄積されたがゆえにシンガポール子会社の事業実体の有無が問題となった。
裁判所は、シンガポール子会社は、下請け工場、労働力を所有し、原告に住宅建築資材、住宅設備機器の開発、供給し、市場調査、現場調査、技術指導を行っていると認定した。
親会社の商標を用いて下請先労働者を搾取していたわけであるから、現実の経済利益の移転がないから所得を創造することは困難であるが、商標権使用の対価の計上がないことの経済関係上の原因事実の説明が行われていないこと、シンガポール子会社が所有するノウハウが原告に伝われば陳腐化するという属性を与えながら、将来得られるであろうノウハウの対価という期待に立脚してロイヤルティを支払っており、これでは、役務提供の伴わない前払費用であると言っているのと同じであること、シンガポール子会社の使用人が当該子会社では研究開発を行っていないと証言するなど、突っ込みどころがいくつかあるにもかかわらず、課税庁は攻めきれず、資本家が司法にその主張を認めさせることに成功したのである。