[事実関係]

取締役を辞任して監査役に就任したことによる、代表者の妻に対して支払われた退職給与が、損金として認められるか否かにつき、原告の主張を認めた事例がある(長崎地判平成21年3月10日)。

丙は、甲が代表者に就任する前に甲と婚姻したことから、昭和53年から原告が有限会社にしていた段階に勤務し始め、昭和56年7月に取締役に就任し、平成8年7月に常勤取締役から非常勤の取締役になり、平成16年6月25日に取締役を退任して監査役に就任した。

平成16年6月25日の株主総会において丙に退職金1,800万円を支給する旨の決議がされ、原告は丙に源泉所得税及び特別徴収税額を控除した1,737万6,000円を支払った。

原告は平成16年7月5日に長崎税務署長宛に退職金に係る源泉所得税を納付した。

丙に支給された月額報酬は、下記のとおりであった。

昭和63年10月~平成2年11月 20万

平成2年12月~平成3年6月  50万

平成3年7月~平成14年1月  60万

平成4年2年~平成5年2月   80万

平成5年3月~平成6年7月   100万

平成6年8月~平成8年6月  50万

平成8年7月~平成16年6月  20万

平成16年7月以降      20万

裁判所は、

「平成19年課法2-3他1課共同による改正前の法基通9-2-23(役員の分掌変更の場合の退職給与)

法人が役員の分掌変更又は改選による再任等に際し、例えば、次に掲げるような事実があったことによるものであるなど、その分掌変更等により、その役員としての地位又は職務の内容が激変し、実質的に退職したと同様の事情があると認められることによるものである場合においては、これを退職給与として取り扱うことができる。

ア. 常勤役員が非常勤役員(常時勤務していないものであっても、代表権を有する者及び代表権を有しないが、実質的にその法人の経営に主要な地位を占めていると認められる者を除く)になったこと。

イ. 取締役が監査役になったこと(監査役でありながら、実質的にその法人の経営に主要な地位を占めていると認められる者及びその法人の株主等で、令71条1項4号に掲げる要件のすべてを満たしている者を除く)。

ウ. 分掌変更の後における報酬が激減(概ね50%以上の減少)したこと。」を挙げ、

「原告の妻丙は、平成16年6月期を含む各事業年度を通じて原告の発行済株式の12%の株式を有しており、法人税施行令71条1項4号の要件をすべて満たし、使用人兼務役員とされない役員に該当する。 そして、本件通達によれば、そのような者が取締役から監査役になったことは、取締役の退任に伴い支給された給与を退職給与として取り扱うことができる場合から除外されている。

しかしながら、本件通達が退職給与として支給した給与を、法人税法上の退職給与として取り扱うことができる場合として挙げている事実は、その文言からも明らかなとおり、例示であって、役員としての地位又は職務の内容が激変し、実質的に退職したと同様の事情にあると認められる場合には、その際に支給された給与を退職給与として損金の額に算入することが認められるべきである。

丙が取締役を退任し監査役に就任することによってその地位及び職務の内容が激変し、退任後も原告の経営上主要な地位を占めているとは認められず、実質的には退職したと同様の事情にあると認められる。

一般的には、同族会社の大株主が取締役から監査役に就任したとしても監査役の実効性に疑問が生じるところは理解できないわけではないが、平成17年法律第87号による改正前の商法や商事特例法は、このような大株主にあることを監査役の欠格事由としていなかったのであるから、法はこのような大株主による監査についても一定の機能が果たされることを期待し、可能であることを前提にしていたというべきである。

そうであれば、法人税法施行令の71条1項4号の要件の全てを満たしている者について例外なく監査役の本来の機能が期待できないと解することはできないと解することはできないから被告の主張は採用できない。

退職給与は、役務の対価として企業会計上は損金に算入されるべきものであるところ、取締役が監査役に就任し、その任務が激変した場合であれば、その就任期間内の役務に対して相当な退職金を支給した場合として、役務の対価としての性質を有することから、損金算入することに弊害があるとはいえない。

退職給与は、取得した者においては、(1)退職すなわち勤務関係終了という事実によってはじめて給付されること、(2)従来の継続的な勤務に対する報償ないし労務の対価の一部の後払いの性質を有すること、(3)一時金として支払われることの要件を備えることが必要である(最判昭和58年9月9日)。

使用人兼務役員とされない役員が取締役から監査役になり、任務が激変していれば、実質的に勤務関係が終了しており(上記(1)の要件)、その他の要件(上記(2)(3))を満たすから、これを退職所得とみることに弊害があるとはいえない」として

退職給与として支給された金員は役員賞与には当たらないとした。

[解説]

分掌変更による退職給与の損金算入については、平成18年京都地裁判決後、形式判定のみならず、現実の生産関係も考慮する旨を課税側は明らかにしている。当該代表者の妻は、原告法人の発行済株式の12%を所有し、法人税法施行令71条1項4号の要件を満たし、使用人兼務役員とされない役員に該当する。

確かに監査役に分掌変更されたとしても、使用人との生産関係上、経営に参画しうる。しかし、常勤取締役、非常勤取締役時代も取締役会に参加し外注管理や重要な経営方針の決定にも関与してていたが、一方で、パート労働者と同じく紙器製造、商品の発送を行い、給与計算、製品の製作指導を行っており、監査役就任後の報酬が月額20万円であったとはいえ、取締役時代も月額20万円の報酬であった。

使用人から役員昇格時に退職金の支給を受けていない。資本と使用人との間の生産関係も有していた。監査役就任後は、飲食店の開業準備に当たり、帳簿書類の監査、業務の引き継ぎ以外、原告法人の業務には関与しなくなった。

当該監査役の取締役時代、監査役時代の生産関係を取り上げて検討すると、大法人も中小法人も役員登記するしないにつき自由意思はないが、大法人における資本家の生産関係によって動く管理労働専門の役員と資本家と代理人労働者の下で労働する使用人の生産関係、現場の労働には着手しない、すなわち、大法人における資本と使用人の間の生産関係と全く同じではない。

監査役就任後の生産関係を見れば、監査人としての義務は残るので完全に資本との生産関係が終了したわけではないが、取締役という生産関係が終了し、法人資本との関係が変化したといいうることができるから、現実に取締役の退職という生産関係の終了を原因とする退職給与があったものとして損金算入が成立しうるのではないかと思われるかもしれない。

しかし、労働を疎外される労働者であると共に、紙切れに引換え券の属性が付与されたことにより、金融資本のコントロールを受け容れ、監査役就任前後を通じ、金融資本と共に、フィクションされた法人の労働者との資本関係を源泉に、労働を疎外し利潤を得てその評価を経済上コントロールし、金融資本を含む資本と監査役に資本関係、生産関係がフィクションされ、現場労働をしなくなったとしても 退職金の評価の内の労働の評価を超える部分と監査役就任後の月額給与の労働の評価を超える部分は利益配当に相当することになる。

監査役には役割は予め備わっていない。本来の役割は実体のない観念である。

法が実体のない観念である期待をもって、監査役を経済上コントロールするのではない。監査役は資本関係、生産関係をフィクションされ、労働を疎外させられ、すなわちここで役割が規定され、利潤が産み出され、労働力商品と交換される商品に価値が付与されるのである。

本件においては、飲食店の開業準備の段階に国際金融資本、原告に出資している甲から現金商品を受けたことにより、融資がフィクションされ、丙が原告との間に資本関係を源泉とした経済上のコントロールが及ぼせなくなったことが推察される。

国際金融資本が、資本関係をフィクションし、労働を疎外し、労働力商品と交換される商品に転嫁することなく待たせて、労働力を再生産させて労働を継続させて、甲を通じ丙に親族の介護と養育を負担させてきたことを踏まえると丙に支給し退職給与の属性を付与したものは、役員給与ではないし、配当に相当する部分があったとすることは困難であろう。