棚卸資産は、売り上げることによって利益をもたらす重要な資産であると言われることがある。利潤は、商品と商品の交換により産み出されるのではない。製造業の場合には、製品の瑕疵の有る無しに関係なく製造という労働を疎外して、卸売業の場合、出荷という労働を疎外することによって、小売業の場合には引渡しという労働を疎外することによって利潤を産み出すということに注意しなければならない。
在庫回転率の計算式は、売上高÷{(期首在庫+期末在庫)÷2}で計算するとしている経営分析の書籍が多い。しかし、分子を売上高としてしまうと、分母にある在庫の段階では未実現の利益であるものが分子に含まれていることとなってしまい、分母と分子がきっちりと対応関係がなく、計算に歪みをもたらすことになってしまう。このことから、アメリカの経営分析の書籍では、在庫回転率の計算式の分子は、売上高ではなく、売上原価となっている(Leopold A. Bernstein, John J. Wild, Financial Statement Analysis-Theory, Application, and Interpretation. 6th.ed,p 423) 。
継続企業の場合、標準的な棚卸資産の量の水準を大きく減らすことにより売上数量が減少しうるので、流動負債の支払に棚卸資産を使用することはない(Bernstein,p 424)。
売上の増加、委託販売、価格の上昇、営業停止、需要の高まり等による棚卸資産の不足を嫌い、その他合法上の理由(ストライキ等に備えてという名目で、棚卸資産が増え、回転率が低くなっているとすれば、さらに深い分析を要する(Bernstein, Lyn M. Fraser)。需要はフィクションであることに注意しなければならない。リスクは実体のない観念である。
経営の面、資本の立場から言えば、少ない棚卸の方が望ましく、典型はトヨタのカンバン方式である。注文、生産、販売、処分を統合することにより、低い棚卸資産の量を保つことを管理するものとして、カンバン方式は海外でも知られているところである(Bernstein, Gerald I.White p 278)。
棚卸資産は倉庫に寝かせたままでは利潤を産まず、労働力に貸出して疎外労働をさせなければ利潤を増殖できないからである。
高い棚卸資産回転率は、過少在庫、注文の減少、価格下落、原材料不足、見込んでいたよりも売上が多いということであるとされる(Lyn M. Fraser and Aileen Ormiston p 162)。
価格が安い方が売上が上がり、売上原価率も高くなり、棚卸資産回転率も高くなると解されている(Stickney, p 137-138)。
在庫は多いということは、現金商品と交換できていないということである。工場の生産、操業を抑え、生産調整を余儀なくされる。
仕入価格が安く、売上原価率が低い場合、好況のときは需要が増し、価格が高くとも高い回転率になり、仕入価格が高く、売上原価率が高い場合、不況のときは、需要が減じ、価格が安くても棚卸回転数が低くなるという見解がある(Stickney)。
このことは、労働を継続させるか労働を強化してより多く疎外労働をさせて、労働力商品と引換えられた商品に低い価値属性を付与しているということである。需要、好不況、競争は、フィクションである。価格、利潤は、交換ではなく、労働の疎外によって産み出される。
そして、原材料を貸出して開発製造という労働を継続させ引き伸ばし、疎外労働の評価は増大される。陳腐化をフィクションする。
一度購入すれば永久に貸出して賃労働、無償労働において労働させることができる商品を製造することは、疎外労働が反復継続できないということでもある。
使用が有限である商品を、在庫を滞留させることなく売らされるのである。
棚卸資産は、販売されずに滞留し続ける商品、再入荷によるもの、支店、工場、倉庫間の転送によるもの、預け在庫、取引先の経済関係で出荷を見合わせていることがある。
一旦、不良の価値属性が付与されれば、廃棄するか売却しない限りは、棚卸資産回転率上昇の過程となる。
小売業の場合には、製品、商品の回転率を求めることで差し支えないが、製造業の場合には、原材料、仕掛品、製品に分けて棚卸資産回転率を計算することを提案するものがある(Gerald White 2nd p 157)。
仕掛品は、出荷前の疎外された労働の評価が転嫁された現物だけでなく、労働力商品と引換に得た現金商品の評価が含まれるから、実地棚卸ではチェックが困難な場合がある。
経済関係、実体関係を経た仕様の変更により、原材料、仕掛品が滞留を余儀なくされることがある。
棚卸資産回転率は、労働の疎外を土台として転嫁させた商品在庫の評価方法によって異なってくる。
後入先出法(LIFO)を用いた方が在庫回転率が高くなり、節税上のメリットがあるとする見解もある(Gerald I White p 276-280)。