例えば、ある法人が事務所建物の塗装工事等をはじめとする原状回復としての修繕を行ったとする。税理士事務所等から、税務署等が質問検査に訪れた際に、当該修繕が、当該資産の改良としての支出、すなわち使用価値を高めることとなる支出でないことをアピールする資料として、修繕直前の写真を撮りなさいとの助言を受けた納税者の方も多いと思う。

しかし、修繕直前の写真と修繕後の写真を比べてみても、事業に供するに耐えられない程磨耗していない限り、明らかにその資産の外観は改善されているに決まっている。写真や統計数値等は、それを見る者にとっては注意を要しない。

従って、税務調査官に原状回復であることをアピールする材料としては弱いと言える。原状回復は、「現状」回復ではない。原状回復の「原状」とは、当初予定していた機能を果たせることである。写真をどうしても撮るというのであれば、建物工事完成引渡し当時の写真を撮るということになる。修繕前の写真を撮っても意味がないのである。そして、質問検査の対象となる帳簿書類その他の物件の中には工事写真は含まれるとは言えないであろう。何故なら「その他の」は、「その他の」の前の語句が「その他の後の語句に包含される関係にあることを示すものであり、「その他」は、その前後の語句が別個の概念であることを示す点で異なるからである。請求書、見積書、契約書、領収書等を提示して、修繕に係る書面等により税務署員に判断させればよいのであって、税務署員が帳簿書類その他物件により修繕の事実を調べたり、確認したりすることができる条件を作りだしているわけであるから、写真がなかったからといって、帳簿書類その他の物件の提示を拒んだことにはならないのである。