前回は、独立企業間価格算定に必要な文書の提示又は提出と推定課税の関係について述べたが、税務当局は、こういった文書の提示又は提出を調査の場等において求めるからには、調査を行なうことについての事前通知の一環として、移転価格の算定について調査したい旨とその根拠条文の告知がなくては、とてもではないが納税者は対応できないであろう。

いくら第三者である専門家による意見書等を作成しても、所謂、後出し証拠は、米国などにおいては、裁判所に否認される傾向にある。

しかし、実際には、納税者は、日々、対関連者、対非関連者に係りなく、継続的反復的に大量の取引を行わなければならず、価格算定に根拠があるにしろ、担当者同士が電話等により価格交渉を行なって契約う成立に達することも多い。

注文請書、覚書等に詳細にその根拠を書いていたのでは納期等に間に合わない。単価のさほど大きくない取引までいちいち社内で稟議をかけている暇などない。

そこで、取引時において、文書化がなされず、後日改めて文書化を試みることとなる。移転価格についての調査であることを予想して納税者は調査に臨むわけではなく、調査の時にいきなり前述のような文書の提示又は提出を求められても(「遅滞無く」とあるので、税務当局は、具体的期日はないが、全く待たないというわけではない)、文書化が完全に済んでいない場合もありうるのである。

担当者が退職してしまっている可能性もある。こうした事情をふまえて、予め移転価格の調査であることとその根拠条文を告知することが必要となる。

このような解釈は、所得税法234条のいう「調査について必要があるとき」の文言から当然導きだすことが可能である。なぜなら、「必要がある」というからには、調査の申込みをするに当たり、納税者からの求めがあるかないかを問わず、根拠条文を含む、調査が必要であることの理由を説明しなければならないからである。

そこで、仮に移転価格の調査であること等の告知があったとしても、納税者の側の作成した文書が完全なものでなかったとした場合はどうか。税務当局が算定した独立企業間価格が適法か否かは、法の趣旨・目的に照らして判断すべきこととされているのであって、現実には、納税者が算定した価格と比較して適正か否かを判断するのではない。

司法における違法性判断時である処分時に、税務当局に、法律上、課税処分を行なえる土台となる経済関係事実の確定に瑕疵があったということが立証できればよいのである。

行政機関を使用する金融資本家に記帳の土台となった経済関係を否定し、反対給付なく義務を課す権利を確定させることをやめざるを得なくさせるのである。

納税者と課税当局の間に、求められる算定根拠の精密さや首尾一貫性等の程度に差異があるのは、課税処分の侵害処分としての実体と課税当局を所有する資本家に対しては公定力をはじめとする強力な権限が付与されていることを鑑みれば、それは義務と言えるであろう。

したがって、金銭消費貸借取引事例等における裁判所のいう「納税者において、課税庁の算定した数値よりも優れた算定方法を立証しない限り」といった趣旨の文言は、違法性判断の比較すべき対象と取り違えているように思われるのである。

独立企業間価格算定方法における優先適用についての規定から、上記のような納税者が立証責任を負うとする解釈を導き出すのは無理があるように思われる。